『すぐにスーツに着替えて謝罪にいくように』
事の次第を直属の上長である宴会課長に報告すると返ってきた最初の言葉。
結婚式の責任者(キャプテン職)を担当して半年が過ぎようとした頃の出来事。
すぐにロッカールームに向かい、着用していたタキシードを脱ぎ、代わりにダークスーツを着て足早に部屋を出る。
用意してもらったホテルオリジナルリーフパイと社用車に上司と二人乗り込む。
【そう、ご両親に新郎・新婦からのプレゼントである花束をお帰りの際に渡しもれたのである…】
結婚式はクライマックス、ご結婚されたお二人の新郎新婦により、感謝の花束がご両親に渡されます。
今までのありがとうの気持ちを込めて。
結婚式がお披楽喜(おひらき)となり
※「おひらき」とは結婚式がめでたく進行して締める時に使う用語 「終わる」、「終了する」などは縁起が悪いので使いません。
通常はここで荷物と一緒にまとめて花束をお渡しするのですが、この日は持込物が多く新郎(男性側)のご両親が全て持ち帰ることになっていました。
大切な花束は他の荷物で潰さないように最後にお渡しすることに。
荷物がまとまったことにスタッフ一同、その場の皆がホッとなり、そのままお見送り。
その日、全ての結婚式がお披楽喜となり、披露宴会場の鍵を閉めようとした際に会場袖にある一つの花束…
全身の力が抜ける思いでした。
その瞬間に渡し忘れたことに気が付き、すぐに上長に報告。
『スーツはあるよな、着替えをして今日中に届けるように』
川崎の新郎のご実家まで、お詫びの品と共に花束をお渡しして、謝罪して事なきを得ることになりました。何が起こるかわからないのがホテルの仕事でもあります。
スーツがあったことですぐに行動に移すことができ、備えに救われました。
スーツで出勤してくるのは、外回りが主な仕事の営業部スタッフと総支配人くらいでしょうか。それ以外のスタッフにはユニフォームが貸与されます。(最近は総支配人もユニフォームのホテルもあります)
ホテルで働く9割は通勤時に私服で出勤します。
よく言われることですが、「いつどこでお客様に見られているのかわからない。だからこそ身なりはきちんとしておくように」
これも入社時の研修で教わることの一つです。
特にホテルの最寄りの駅から歩いて社員通用口まで行くとき、歩きタバコや飲食、ごみのポイ捨てなど一般常識的にNGなことは禁止事項です。
また、厳しいホテルでは最寄りの駅近くの飲食店で、社員同士の飲酒を禁止にしているホテルもあります。
私服の姿をお客様に見られることを考えると、ファッションにも気を遣うのがホテリエとして心得なのではないでしょうか。
東京ウエディング・ホテル専門学校では、スーツで登校をする日があります。
普段からスーツを着こなすことで、就職活動時の面接試験に出向くときに「きちんとした姿」で臨むことが出来ます。
そして、その先にある憧れのホテルの制服が似合うホテリエになる訓練にも役立ちます。
皆様も普段からスーツの代わりに『備えの何かを』身に着けるものや、バックに入れて置くとイザというときに自分の助けになることがあるかもしれませんよ。